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本の紹介

「爪と目」  

           藤野可織著 
 新潮社  


爪と目   

 

まず、読み始めて思うのは、「この小説は、“誰”が語っている物語なのだろう」ということだ。読み進めるうち、語り手はこの時三歳の幼女だったと分かるのだが、だからと言ってこの小説が、一人称で語られた話なのだとは感じにくい。

 ネット上で見る感想には、「二人称で書かれた珍しい小説」というものが多かったが、個人的にこれは「一人称の顔を借りた、極端に突き放した三人称で書かれた小説」なのではないかと思う。現在のスタイルになってからの、大島弓子の漫画のような、と言えば分かる方もいるだろうか。

 語り手は、自分の感情について、一言も言及しない。その代わり、起こった出来事や五感で感じたことについては、しつこいくらいに、細かすぎるくらいに描写されている。

 父親は、実母の死を経験した娘について、「今はちょっと混乱しているけど。まあでも、ほら、ね、もうしばらくは」と、再婚相手である「あなた」に説明する。確かに、心であれ体であれ、傷付いても時間が経過すれば癒えていく。ただしそれは適切なケアがなされればの話である。この場合、それは家族の会話になるはずだった。語り手が自分の口から傷を語り、家族はそれを聞かなくてはならなかった。けれどもそれはなされない。

 実母の死によって語り手は強いストレスを負った。それは「爪を噛む」という行為で表現された。けれどそれに対して、父親も継母である「あなた」も放置するだけだった。だからストレスが癒えることのない語り手は、物語の最後まで爪を噛むことをやめない。

 「あなた」には、語り手と話をする時間があった。そしてその中には、語り手のストレスを癒やすことのできるキーワードがいくつかあった。例えば、語り手がピンクのカーテンを選んだ時。そのカーテンを「あなた」が変えようとしたら、語り手が無表情のまま泣いていた時。語り手が絵本を見つめ、「これ、ひなちゃんの好きなやつ」とつぶやいた時。「あなた」はその時、語り手と話をしなくてはいけなかった。けれど「あなた」はその機会をことごとく無視してしまった。

 それどころか、語り手が強いストレスを感じたことを、泣きながら、うなりながらつかみかかるという、はっきりした行動で示した時、「あなた」は言うのだ。「目をつぶって、見えなければ、ないのと同じだ」と。そして、語り手のストレスの象徴である、ギザギザになった爪を、やすりをかけマニキュアを塗って、ぴかぴかの傷ひとつない状態にしてしまう。癒やすことは何もしないまま、なかったことにしてしまう。

だから語り手は、「あなた」の何も見ようとしない目に、直接、自分の「痛み」である爪から剝がしたマニキュアを載せたのだ。こうすれば「あなた」にも見えるか、と。私の痛みが分かるか、と。

私はこの小説は、壊れてしまった家族の物語であり。その中で、壊れなければ生きていけなかった少女の復讐の回顧録だと思う。実母が生きていた時から、父親はその役割を果たしていなかった。実母が死んでしまった後にあてがわれた「あなた」は、来た時からすでに壊れていた。思考を放棄し、自分の快楽以外には無関心という形で。だから、その穴を補うどころか語り手である少女を決定的に壊してしまった。「あなた」と語り手の違いは、自分が壊れていること、いつ、どんな経過を経て壊れたかを知っているか、いないかだろう。少女は生き延びるために、意識して自分の感情を放棄した。自分も含めた全てを、はるか高みから俯瞰して見ることしかできない。実母の死についても「心に傷を負ったようだった」と、他人事のようにしか語れない。その代わり、感情が湧きおこるはずの背景については、細かく覚えている。

しつこいほど、細かすぎるほど、本来知っているはずのない出来事についてまで描写された背景から、一人ひとりの読み手が何を浮かび上がらせるかを、この小説は問うているように思う。「あなた」のように思考を手放しても、起承転結のはっきりした、分かりやすい感情表現の物語ならば、簡単に消費することができる。けれどこの物語は、各人が何度も何度も脳で咀嚼をしなければ、消化できないようにできている。

話の途中で、成長した語り手が年老いた「あなた」に、あのとっておきの言葉、「見えなければないのと一緒」を聞かせてあげた、というくだりが唐突に出てくる。そこではそれしか語られていない。どんな状況で、何について、語り手は「あなた」にそのセリフを言ったんだろう。どんなふうにして、復讐したんだろう。想像は尽きない。

 





「ポンチョに夜明けの風はらませて」 

              早見和真  祥伝社


                         

 
ポンチョに 

 

そられまでパッとしない日々に流されてきた高校生たちの卒業までのカウントダウンが、スリリングに、そしてハートフルに描かれた、爽快感たっぷりの青春小説です。

「仲間」と「夢」。そのキーワードにひらめきを感じた途端に、男子高校生ってそこまでやっちゃうんですか?!

でも、あとさき考えずに今この時を満喫できるのが、青春の特権。彼らはその真っ只中にいるのです♪

オトナ的分別を捨てて、彼らのドタバタに一緒に巻き込まれて読むのが楽しい本です。


 
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